前節での敗戦から「1日休んで頭を整理したいです」と申し出てきたユキヤ。「もちろん、悩みながら、解決策も見つけられず練習する必要はないと思う」と休養を取らせ、その翌日、ユキヤと時間をとって話をしました。ピンポンウルトラのファンがユキヤの試合を応援しながら感じていることや、私からの意見… もちろんユキヤは真剣に耳を傾けてくれます。
「勢いがあるのに、試合の流れに乗り切れず、なぜ勝ち試合を負け試合にしてしまうのか…」という最大の課題に対し、少し結論的なものが見えてきました。それは技術でも精神面でもない事でした。ヒントはピンポンウルトラのファンが教えてくれたアドバイスでした。
出発の前日まで、41歳のバスティーは午前午後の練習をシェークハンズクラブで行い、ユキヤに「練習するか?」と声をかけてくれていました。もちろん激しい動きの練習だけではなく、サーブ3球目とレシーブ練習だけを2時間くらいかけて入念に行います。
「バスティ、ユキヤの技術的な悩みを聞いてくれないか」との私からのお願いに対し、バスティはユキヤにレシーブの時の考え方を教えてくれました。
「明日のムールハオゼン戦。ハーベソンのサーブはこれ。イオネスクはこれ。メンゲルはこれ。こういうケースでは… 最後の競った場面では….」
時計を見たら2時間以上教えてくれていました。バスティありがとう!
「コージ、キリアンが風邪をひいてしまいムールハオゼン戦は出れそうもない。オーダーはどうする?イオネスクだけは勢いがついてきたら止まらなくなるから、できれば俺はイオネスク以外が良いな。ユキヤは今までカットマンや左利き、そしてアンチスピンとあまりノーマルな右利きと当たっていなかったから、ムールハオゼン戦はユキヤがエースでも良いと思うよ。ユキヤも意地があるだろう」とバスティーが私に伝えてくれました。
12月21日(水)アウェーに移動。
対戦するムールハオゼンの選手は
・メンゲル(ドイツ/WR135位)今シーズン、林(台北/WR8位)を倒すなどエース的な働きをしている。
・イオネスク(ルーマニア/WR62位)世界選手権で張本選手に勝つなど当たりだしたら止まらなくなる。またラストのダブルスでキム(韓国)と組んで今シーズン、チームに勝利をもたらしている。できればバスティとは当てたくない。
・ハーベソン(オーストリア/WR61位)エースの実力を十分に持っている。
前半戦のオーダーや調子から私の予想では
1番メンゲルかハーベソン
2番イオネスク
3番ハーベソンかメンゲル
ダブルスがイオネスクとキム
その予想から立てた我々のチームは
クニックスホーフェンは
1番が宇田
2番はバスティ(イオネスクとは当てないでメンゲルかハーベソンと当てたい)
3番にフィリップ。ダブルスまで回っても相手のイオネスク・キムのダブルスはコンビネーションも良いので正直厳しい。何とか3対1では勝利したい..
ダブルスは自動的にバスティとフィリップだがここまで回したくない。
オーダー交換の直前、ダニ(ハーベソン)が「コージ、俺の予想はバスティが2番か笑?」と言われ
内心『引っ掛けてるのか?それとも読まれてるのか?』
オーダー交換終了..
1番 バスティ vs イオネスク
2番 宇田 vs メンゲル
3番 フィリップ vs ハーベソン
4番 宇田 vs イオネスク
見事なまでに外れました(読まれてました)まさかイオネスクが1番とは…。
「コージ、何番に出てもいつもイオネスクと当たってしまう。宿命だね」と笑うバスティーでしたが、どんな試合を見せてくれるのか。
今シーズンのユーロッパチャンピオンズリーグで準決勝進出を決めたムールハオゼンの試合を見ようと、
狭い会場には立ち見が出るほどの超満員のサポーターが集結。太鼓、ラッパを鳴らしながら怒涛の応援!
18:30試合開始。
1番 バスティ vs イオネスク。ホームゲームで滅法強いイオネスクが手がつけられなくなる前に勝って試合を終えたい。イオネスクに対しては戦うポイントが3つあり、何度も対戦している両選手の試合はそのポイントを順番に攻めながら今日はどこで勝負をかけていくかを見極める必要があります。大事な第1ゲームは8対10となりましたが、このゲームを逆転で取ると、「攻める3つのポイント」が上手く機能し、バスティーが3対0で勝利!バスティ凄い!
2番 宇田 vs メンゲル。まだまだ硬さの取れない宇田に対し、2メートル近い長身ながら、フルスイングするだけでなくブロックやストレートコースを巧みに使ってくるメンゲルが2対0とリード。しかし、ここから「長身の選手と同じ位置で打ち合っても届かない」と立ち位置を思い切って変えた宇田が2対2に追いつきます。大事な最終ゲームのスタート、フォアのレシーブかチキータか迷ってミスが出てしまった宇田が大きく離され、ジ・エンド。2対3での敗退。
3番 フィリップ vs ハーベソン。フォア前の台上処理に難があるはずのハーベソンですが、そこを上手くカバーしながら、得意のラリー戦に持って行く頭脳は正直流石です。フィリップのロングサーブも狙い打たれ0対3で完敗。
ここで5番のダブルスの相手ペアーを確認しに行くと、何故か左利きのキムは出ていなく、ハーベソンとメンゲルのダブルス。両選手ともシングルスでは自分のシステムでプレーできるのですが、ダブルスになると極端に力が出せなくなるのを知っています。4番が勝てれば勝機が見える!
4番 宇田 vs イオネスクがスタート。宇田のサーブ3球目が威力を発揮し1ゲームを奪うものの、第2ゲームはしっかりと対応され、第3ゲームもジュースで敗退。ゲームカウント1対2と追い込まれます。
この場面でのアドバイスは..
「ユキヤ。まだ試合は5部5部。その理由はサーブが効いているから。出すサーブはコレとコレとコレ。あとは台上処理だけ。フォア面で対応したら何でもいいから真ん中からフォア半面へ。バック面で対応したらミドルへ何でもいい」
「そしてどんなに苦しくても忘れないようにしよう!自分のスーパーボールで得点したら努力の賜物。自分のボールの質が40%だったとしても相手がミスをしたら自分の判断の良さ。ユキヤにとっても、ベンチにとっても、サポーターにとっても同じ1点。そこで声を出し流れを失わないようにしよう!」
最終ゲーム4対5でチェンジエンド。次は卓球台から下げられて苦しいラリー持ち込まれましたが泥臭くポイントにつなげ、そで掴んだ流れを見逃さず連続ポイント!3対2での勝利!久しぶりに見たユキヤの勝利のガッツポーズにアウェーまで応援に来てくれたサポーターが湧きました!「ユキヤ!ユキヤ!」ナイスゲーム!
5番 バスティ・フィリップ vs ハーベソン・メンゲル。大きな打ち合いを避けしつこい台上勝負に持ち込みゲームカウント2対0とリード!このまま勝てるか?と思いましたが第3、4ゲームを失い勝負は最終ゲームへ。なぜ相手に勢いがついてきたのか….
答えはメンゲルのチキータレシーブでした。第3ゲーム中盤からメンゲルのチキータ一発で得点を取られてから完全に流れが変わってしまいました。私の頭の中は「最終ゲームの立ち上がりで如何にしてメンゲルのチキータレシーブを防ぐか」だけでした。
最終ゲーム前のアドバイスは「バスティ。試合の進め方は全部任せるよ。しつこく台上で勝負するか、大きなラリーで勝負するか。俺のアドバイスは1つだけ。第1、3ゲームはバスティのサーブでメンゲルのレシーブからスタートし、チキータで得点されてからスタートしていたから、第5ゲームはフィリップのサーブ、ハーベソンのレシーブからスタートし、メンゲルのレシーブ回数を減らしてくれ」
メンゲルのレシーブ回数を減らし5対3チェンジエンドから連続ポイントを重ね3対2での勝利!
勝利後のバスティの「ピョンピョンジャンプ」は可愛いです!見逃さないでください!
【 ハイライト動画です 】
たった11試合を戦っただけの前半戦ですが本当に「濃い」試合ばかりでした。
「あと1点取っていれば。あと1ゲーム取っていれば」は試合では通用しないです。逆にサプライズでのチームの勝利もあり、シーズンを通してのトータルの結果だと思います。ただハイレベルなリーグを6勝5敗で折り返す事ができたのは少しホッとしています。
ユキヤにとってはシングルス2勝7敗という苦しい結果でした。が、最終戦のイオネスク戦での勝利後に見せたガッツポーズは久しぶりに見せたユキヤらしい姿でした。
ユキヤは悩んでいます。試練だと思います。
ただ一つ言えるのは、この街にはユキヤを超一流のプロ選手に育てようとしているサポーターや、チームメイトが間違いなくいるということです。
かつてダルコ(ヨルジッチ)(スロベニア/WR11位)が最終ゲームはビビって攻めることができず、いつも2対3での負けを繰り返し、私がベンチから「ダルコ!ストロングハート!」と大声で声をかけたり、ミズキ(及川選手)に「もっともっと相手を見ろ!相手が何をやりたいのか感じろ!根性で勝ってこい!」と私が無茶なアドバイスをしていたのを思い出します。
私の役目は、あーだこーだ卓球の話を伝えるよりも「ユキヤを超一流に育ててくれる多くの人とユキヤを繋ぐこと」なのかもしれません…
第1チームの最終戦だけではなくクニックスホーフェンの他のチームの前半戦が12月17日までに全て終了しました。
4部リーグの第2チームは10チーム中7位で折り返しましたが、まだ降格圏内にいるので後半戦の頑張りが必要です。
7部リーグの第3チーム。最終戦は首位チームとの試合で、マックスが怪我で出場できなくなり、1番手が棄権という苦しいスタートでしたが、何とダニエルとヤコブが活躍し、5対4で回ってきたラストでカズトが勝利し6対4での勝利!リーグ2位で折り返しました。後半戦の頑張り次第では昇格が見えてきました!
妻がプレーする第4チームの最終戦は、マインツ戦の前日に行われました。チームは9対7で勝利し、試合後にロッカールームで「クリスマスパーティー」を開かれました。パーティーはもちろん盛り上がり、「コージ、明日のオーダーは?」などの質問攻めにあいました。私と妻が12時を回ったので途中で帰りましたがまだまだ続きそうな雰囲気でした。翌朝は8:00からマインツ戦に向けての会場設営を開始すると言っていました。サポーターの方々には頭が下がります。
夏に日本に帰国し、ドイツに戻った8月最終週にスタートした試合から17週連続で試合が続きました。
ずっと気持ちが張り詰めていたので、クリスマス休暇でエネルギーを充電し、1月からの後半戦に備えたいと思います。
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